塵一粒

同人誌やイラストの感想とか雑記とか。同人感想は作者さん向け。

【感想】ヒーローは、青空の下【百千ぽっち】

『ヒーローは、病床にて』 コミックマーケット94(2018年夏)発行。

『ヒーローは、青空の下』 コミックマーケット95(2018年冬)発行。

 

 まとさんの南条光(シンデレラガールズ)本です。RTで回ってきたサンプルに衝撃を覚え、上下巻ともに頂きました。

 

 

 アイマス(シンデレラガールズ)はデレステをしばらくやっていた程度なのですが、様々なファンアートなどに触れ、多くのキャラに魅力を感じていました。

 その中でも南条光というキャラは、自分と同じく特撮ヒーロー好きということで気になっていたキャラでした。

 

『ヒーローは、病床にて』

 明るく元気で、誰かの笑顔のためにいつも奔走しているような南条。そんな彼女が病室の窓際で、点滴台を支えに静かに笑っている表紙はどこかドキドキします。

 活動休止までの、南条の気持ちの落差を見せる演出が凄く好きです。Pと出会ってアイドルになって、努力して努力してCDデビューが決まって、その矢先。絶望とは違う喪失感・現実味のなさが、その後の病院生活を送る南条からも伝わります。それはそれとしてパジャマ姿の南条可愛い。

 

 そして同室の空くんと病院での日々を過ごし、Pや薫ちゃんたちがお見舞いに来た日。第三者による無邪気な親切、その残酷さが南条に襲い掛かります。車椅子を「押してもらう」ことで、増える薬や落ちる体力によって今までじわじわ広がっていた不安が、現実になって突き刺さるこのシーン。ここも友人たちがお見舞いに来てくれて楽しかった場面から一変する演出がたまらないですね……。申し訳なさもあり、薫ちゃん達に向けた辛そうな笑顔が胸に来る。

 そして同じことを空くんにもしていたという、自分の独善を自覚するシーンでもあります。誰かのヒーローになりたい、手助けがしたいという気持ちが先行して、相手の気持ちを読むまでが足りなかった南条。人によってはこれ(親切に車椅子を押す)が正解な時もあるのでしょうが、自分がその辛さを身をもって味わったことでしてはいけないことをしてしまったと気づくのが、まだヒーローへは憧れの域を出ない感じがして初々しいですね。

 

 しかしまた、転んでもただでは起きないのもヒーローです。

 

『ヒーローは、青空の下』

 一度は拒絶された空くんに、再び歩み寄る南条。強い。

 空くんがボールを蹴った時の表情がとても好きです。元気にサッカーをしたり太陽の下で走り回ることを「夢なんだ」と語るも、実は余命宣告を受け、医者にも「夢は叶わない」と言われていた空くん。そんな彼だからこそ、車椅子に座ってサッカーボールを蹴る、たったそれだけのことに嬉しさが漏れ出したような表情を思わずしてしまったのでしょう。

 一方で、南条の病状は悪化します。空くんが(相変わらず身も蓋もない態度ですが)相談相手になってくれているのが、距離が縮まってる感があって好き。南条が希望を与えた空くんが、今度は南条に夢を思い出させる。病は気からと言いますが、一つの絶望を乗り越えた南条が心も体調も安定していくのが凄く良いですね。脂汗を浮かべた南条すき…。

 

 そして空くんの死。一時退院まで何事もないとは思っていませんでしたが、空いたベッドがやっぱり辛い。読み終えてみると、起承転結のしっかりさに感嘆します。

 余命宣告を受けていた空くん。「サッカーは次の機会まで」「チャンスはたくさんある」、どんな気持ちでこんな会話をしていたのでしょうか。手紙を書いていた時点で、時間があまり残されていないことは察していたはずです。しかし空くんの手紙からは南条へのポジティブなメッセージが伝わります。遠まわしな、一人で寂しかったこと、南条が来てそれがなくなったことの吐露。そしてとびっきりのエール。空くんが変わったのがわかります。

 車椅子を押されて現実を突きつけられた時も、隣室のお兄さんが亡くなったことを知った時も、周りに心配をかけたくない一心で胸の内に感情をしまっていた南条が、ここで初めてぼろぼろと涙をこぼすのを見て、こちらも胸がいっぱいになりました。気丈にふるまう彼女の、今までの病気への不安や夢への挫折とは違う感情の決壊がとても好きです。

 

 ラストシーン、そして表紙のライブ衣装の南条は右手首に空君からもらったリストバンドをしています。壮絶な闘病を終え、今は点滴ではなくリストバンドからエネルギーをチャージしているのでしょうか。

 挫折、闘病、友人からのエール。沢山のことを経て南条は、強い芯を持って進んでいけると思います。

 

 

 他にも南条本を頂きましたが、そういえばアイマス本を買うのは今回の冬コミが初めてだった…(9割東方)。買って良かった…本当に良かったです。私も大好きな人たちにエールを送りたい。

 素敵な本をありがとうございました。