【感想】ハルサキドリ【いにしえすたでい】
『ハルサキドリ』
博麗神社例大祭15(2018年春)発行。
いにさん(いに (@ini_pmh) | Twitter )のみすちー&リリーホワイト本です。表紙の冬着の二人が可愛い。雪明かりの逆光が、薄明るい冬の朝という雰囲気でとても良いですね…。
冬のある日、みすちーの元へ居候することになったリリー。四季異変ですっからかんになった春度が集まるまでとのことですが、屋台の中でちまっこいその姿が見えるのがとても愛らしいですね…。
まずキャラとして、今回のリリーとても好きです。(最後のアレ以外)言葉は発さないけれど表情や仕草で豊かに感情を伝える、幼く人懐っこい少女。布団に潜り込んでくるところとか可愛さ爆裂でした。世話焼き女将なみすちーとの相性抜群ですね。そしてそんな無邪気さと裏腹に、垣間見える儚さ。これが特にドツボでした…。
前半まではみすちーとリリーの交流が、回想交えて非常に可愛らしく描かれていましたが、ある日(回想)のみすちーの「春ってなんだろう」という問いから物語の動きが少し変わります。文ちゃんの「いろんな客に聞いてみたら?」というアドバイスを受け、その後屋台を訪れた客から春について聞き出す、ここのページがとても好きです。
初見時はこの演出で、すっと頭の中が冷えるような感覚を覚え、タイトルを見直しました。いろんな人に答えてもらった「春」に対して、みすちーが心当たりを辿っていく。それらはリリーとの思い出であり、裏を返せば、リリーと過ごすことで「春」を一足先に体感できたということなのです。そして、ここで読者がタイトルとのリンクに舌を巻くと同時に、それが「別れと再会の季節」で締めくくられるということを否応なしに突きつけられ、息がウッと詰まるのです。みすリリに感情移入させてこの仕打ち。
別れの前夜、寝支度を整えるみすちーを前に、言い出せないリリーの顔が良いですね……今まで見せなかった、不安げな、気まずそうな表情。しかし当のみすちーは成功祈願のお守りを渡し、明るくリリーを送り出します。いにさんのみすちーホント好き……。
翌日、みすちーの言葉を受けて、お守りをぎゅっと握るリリーが可愛いですねぇ。そして見開きで春をばらまくコマ。いにさんがたまにやる、目が覚めるような迫力のあるこの見開きが大好きなんですよね…。『ローレライとマーメイド』は展開の熱さに一役買ってるし、『霧の先の幻想たち』ではカラーの鮮やかさで「うおおおお」ってなったし(失われる語彙力)。
さて、読み直して気づいたのですが、季節が移り行く描写がとても丁寧でさりげない。みすちーとリリーが川で顔を洗った時その水の冷たさに震えたり、雪を見ながらお風呂に浸かったりする一方で、木々は蕾を膨らませ、冬眠していたはずの動物たちが姿を現します。春を告げる小鳥にしても序盤でウグイス、中盤でメジロと細かい。最後、霊夢と出会った時の鳥は雀でしょうか…? (草木はぱっと見ても全然わからんかった…)
リリーがいなくなった後は、川で顔を洗ってもぽかぽか陽気にイマイチ目が覚めないような……という感覚も対比になっていますね。それでいて、リリーのいない寂しさ・もやもやも確かに含んでいるような気がするのですが、最後の最後でやはりさっぱりとした締め方をしてくれて、清々しい読後感で本を閉じることができました。
あとがきでは「二人が春を集めるネタを考えていたがうまくかみ合わず、逆にエンディングだけを描くような形になった」とありましたが、これはこれで非常にテンポが良くて読みやすかったですね。文々。新聞のカレンダーの通り、三月の最後の二日間だけのお話なんですよね。
でもエンディングまでの道のりは回想でしっかり描写されてるから、全然困らないんですよね…。リリーとの生活の「始まり」の象徴であるエプロンを、最後の屋台のお手伝いでも使ってるとか、そういうさりげない演出大好き。
あと、物語には直接関係ないのですが、いにさんの本の裏のサークルロゴすき。シンプルな分センスが光りますね…。
いにさんの本は演出にハッとさせられることが多いのですが、その中でも印象深かった一冊について書かせていただきました。素敵なお話をありがとうございました…。